大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(特わ)67号 判決 1964年3月03日

君子こと

無職 山口長次郎

大正六年二月一〇日生

主文

被告人を懲役三月に処する。

理由

被告人は、常習として、昭和三九年二月一日午前二時一三分頃、東京都台東区浅草山谷四丁目一六番地先道路上において、不特定の通行人をいわゆるおかま等の客とするため、同所を通行中の柳田雅雄に対し「兄さんよつて行かない。遊び代は貴男の気持でいくらでもよいわ」などと申し向け、もつて、公共の場所において、公衆の目に触れるような方法で、売春類似行為の客引をしたものである。 (証拠の標目)

常習の点を除く、その余の事実につき<省略>

常習の点につき

前科調書及び被告人の司法警察員に対する供述調書によつて認められる被告人が昭和三二年から昭和三八年までの間本件と同性質の軽犯罪法違反及び本件と同一の条例違反の罪によつて、一〇回にわたつて処罰されたにかかわらず、なお、本件犯行に出た事実

(累犯となるべき前科)≪省略≫

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三七年東京都条例一〇三号)は、その第一条において、同条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持することを目的とすると規定しているところ、被告人は、午前二時一三分という人通りも絶えた深夜において本件行為をしたに止まるのであるから、同条例第七条第二号の構成要件である「公衆の目にふれるような方法で客引をしたものである。」ということはできず、結局、同構成要件を充足しないばかりか、被告人の行為が、公衆に著しく迷惑をかけたり、都民生活の平穏を乱したりしたものとは到底認められないから、被告人の行為は、同条例第一条の目的に反する行為ということもできないのであつて、結局無罪であるというべきであると主張する。

よつて案ずるに、所論の条例第一条に所論のような目的規定があること、所論同条例第七条第二号にその構成要件の一部として「公衆の目にふれるような方法で」という部分があること、被告人が本件犯行をしたのが午前二時一三分頃であることは、いずれも所論のとおりであるが、右の「公衆の目にふれるような方法で」というのは、不特定又は多数の人が見聞し得る状態においてするをもつて足り、現実に何人かがこれを見聞したことを要しないものと解すべきところ、前掲各証拠によれば、被告人の本件犯行は、深夜ではあつたが、その場所は、前記のとおり人口稠密な東京都台東区浅草山谷四丁目一六番地先の公衆の通行に開放されている道路上で行われたものであつて、同条例第七条の他の構成要件たる公共の場所にあたり、しかも、現に不特定人たるAが通行し被告人がこれを客引をしたのであるから、かりに人通りが少なかつたとしても、不特定又は多数の人が見聞し得ない状態においてしたものということはできず、同条にいう「公衆の目にふれる方法」で本件犯行をしたものと認定するに妨げない。同条例第一条の目的規定は、同第二条乃至第七条の具体的な禁止行為に関する規定の目的を総括したものに過ぎないのであつて、同第七条の禁止規定に該当するときは、その行為は当然第一条の目的に違反する行為というべきであり、被告人の本件犯行も、また、右目的に違反すると解すべきである。以上の理由によつて、弁護人の前記主張は、到底これを採用することができない。

(法令の適用)<省略>

裁判官 真野英一

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例